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17年12月号文字情報

味の再発見! 昔ながらのニッポンの郷土料理 第8回

京都府・島根県 雑煮

白みその京都、岩のりの島根、郷土色を表す料理
日本人が全国的に郷土食を作る日が、お正月の三が日だ。「お雑煮は家の味じゃないと一年が始まらない」という声は若い世代を含め、取材していて多く聞かれる。この「家の味」は地域それぞれに郷土性があり、実に面白い。関東ではしょうゆ味のおすましにとり肉や青菜の具材が一般的だろうが、今回は関西、そして中国地方から2つの雑煮を取り上げてみたい。

京都を中心とした近畿地方の雑煮は、昆布だしと白みそが基本だ。具は里いも、にんじん、大根が主となる。大根は正月大根と呼ばれる小ぶりなものが用いられる。昆布だしには理由がある。神仏に供えるため、かつお節などの生臭物(なまぐさもの)はご法度なのだ。白みそはたっぷりが基本。「サラサラではなく、軽くトロッとするぐらいたっぷりと」とは地元の方の声。白みその甘みと昆布だしの塩けが溶け合った味わいは、慣れるとクセになる。

対して島根県出雲(いずも)地方は、おすましに岩のり、もちという簡潔さ。いりこや昆布のだしに岩のりを入れると、豊かに磯の香りが立つ。「この香りで一年が明けるんです」との声が聞かれた。出雲市十六島(うっぷるい)町は岩のりの産地として名高く、「ここでとれたものしか使わない」という声も。お雑煮は、地域ごとに「具には○○が入るもの」「だしは○○でなければならない」といった決まりが多いものだ。その限定感が、ハレの日らしさを盛り立てるという面もある。

「だし用に、かつお節や昆布を買うのはお正月だけ。ふだんは即席です」という声も少なからず聞かれる。おせちを家でこしらえる人は少なくなったが、「雑煮だけは作ります」という人はまだまだ多い。お雑煮は、現代人と郷土食をつなぐ要だと思っている。

[写真1]
撮影/島 誠  料理制作/三好弥生

[写真2]
伏見稲荷大社(京都府京都市)

[写真3]
出雲大社(島根県出雲市)

[写真4]
丸もちは主に西日本、角もちは東日本で食される。今回の2つの雑煮はともに丸もち。ちなみに奈良には雑煮の丸もちをきなこにつけて食べる地域もある。

文/白央篤司
フードライター。研究テーマは日本の郷土食と「健康と食」で、月刊誌『栄養と料理』(女子栄養大学出版部)などで執筆。著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)『ジャパめし。』(集英社)などがある。
ブログhttp://hakuoatsushi.hatenablog.com/[外部リンク]

特集1 和食のこころ

和食に込められた、自然の恵みに対する感謝の気持ち。そのこころがよくわかる「行事食」を大切にしていきませんか。

[写真1]
人生の節目に欠かせない赤飯
祝いの席で食べられる「赤飯」。昔は赤い色に邪気や厄を祓(はら)う力があると信じられてきました。小豆は炊くと皮が破れて縁起が悪いため、破れにくい「ささげ」が使われることも。

行事食を楽しむことが和食の継承につながる

日本の暮らしの中には昔から「ハレの日」があります。一つは、人間の成長の節目となる「お食い初め」や「七五三」といった人生儀礼の日。もう一つは「正月」や「節分」といった季節ごとの年中行事。そして、こうしたハレの日に欠かせないのが「行事食」です。

例えば、正月に頂くお節料理や雑煮。家族みんなでごちそうの卓を囲み、健康や幸せや豊かな実りを願い、自然への感謝と祈りをささげます。もちろん私たちは、「ケ」と呼ばれる日常においても自然への畏敬の念を込め、食事の前後に「いただきます」「ごちそうさま」という感謝のあいさつを欠かすことがありません。

つまり、「和食」とは、日本人が昔から大切にしてきた「自然を尊重するこころ」に基づいて、育まれてきたものです。私たちは、四季折々の行事食を通じて、この「こころ」を家族や地域で共有し、絆を深めてきました。

しかしながら、平成27年度の「食生活に関するアンケート調査」によると、和食を「教わった、受け継いだ」と答えた人は全体の3割弱。「教えている、伝えている」という人はさらに少なく16.8パーセント。どちらも若年層になればなるほど、その割合が下がってきています。

私たちが伝え続けていかないと、いつか和食は廃れてしまうかもしれません。ですが、季節ごとに大切にしてきた日本の行事は、多くの人にとって身近なもの。今こそ行事食を楽しみ、和食のすばらしさを次世代に伝えていきませんか。

[グラフ1]
和食・和食文化の継承について
出典:平成27年度「和食」の保護・継承推進検討会「食生活に関するアンケート調査」

[コラム1]
「ハレの日」に旬の食材を頂き子どもたちの記憶に残る思い出を

四季がある日本は、季節ごとに旬のおいしい食材が手に入る、豊かな国。昔から「ハレの日」には、旬の食材を頂いて邪気を祓い、家族の健康を願ってきました。同時に育まれてきたのが、季節を慈しみながら自然に感謝するというこころ。「行事食」は後世まで伝えていきたい、日本の美しいならわしです。

季節の節目となる「節句」は、江戸時代から伝わる年中行事ですが、もともと神様にごちそうをお供えして無病息災を願い、そのお下がりを頂くというものでした。「人日(じんじつ)」、「上巳(じょうし)」、「端午(たんご)」、「七夕(たなばた)」、「重陽(ちょうよう)」の五節句の中には、耳慣れないものもあるかもしれません。しかし、上巳は「ひな祭り」、端午は「こどもの日」と 名前を変えて、現代の暮らしに定着しています。

ひな祭りにはちらし寿司やはまぐりのお吸いもの、こどもの日には柏もちやちまき、七夕にはそうめんなど、それぞれの節句ごとに食べられてきた料理があるので、ぜひ知っておいてください(「季節を感じながら行事食を楽しむ」参照)。

時代の移り変わりとともに、すでに失われつつある行事や行事食もたくさんあります。忙しい日々のなかで、手づくりするのは大変と感じる方もいらっしゃると思いますが、型どおりでなくてもかまいません。各ご家庭流の行事食で、四季の移り変わりを感じてください。家族で季節の行事を楽しみ、味わった食の記憶は、子どもが成長しても、きっといつまでも忘れないでしょう。それが、和食の継承につながるはずです。

[写真2]
後藤加寿子さん
料理研究家。一般社団法人和食文化国民会議副会長。茶道武者小路千家十三世家元有隣斎、茶懐石料理研究家・千澄子の長女として京都に生まれる。同志社大学では美術史を専攻し、陶磁器の研究に携わる。

[コラム2]
子どもの人生儀礼と和食
人の一生にはさまざまな節目があり、それにともなう「人生儀礼」の風習があります。そのたびごとに人々は食卓を囲み、お祝いにふさわしいものを食べてきました。生後100日目ごろの赤ちゃんに歯が生えはじめると、「お食い初め」というお祝いをします。「七五三」でおなじみの「千歳飴(あめ)」といった菓子にも、健康や長寿の願いが込められており、これもまた行事食であることがわかります。

[図1]
子どもの人生儀礼と和食

[イラスト1]
お食い初め
赤ちゃんの成長を祝う食事。「一生、食べることに困りませんように」という願いを込めて、和食の膳が用意されます。

[イラスト2]
千歳飴
米と麦芽からつくられた長い棒状の飴で、縁起のいい紅白に染められています。「千歳」とは、健康や長寿を意味する言葉。

取材・文/大沼聡子
協力/一般社団法人和食文化国民会議


季節を感じながら行事食を楽しむ
日本の暮らしの中にはさまざまな年中行事があり、人々は豊作や健康、幸せを願います。それにともなって食される「行事食」とともに見てみましょう。

正月 … 1月1日
幸せや豊作をもたらす「歳神(としがみ)様」を迎える祝いの行事。鏡もちを供え、お供えとしてつくられたお節料理や雑煮を頂きます。

[イラスト1]
雑煮

五節句 人日(じんじつ)の節句 … 1月7日
七種類の若菜が入った七草がゆを食べ、無病息災を願う行事。「人日」の由来は、古代中国の年中行事を記した書物によると「人を占う日」。

[イラスト2]
七草がゆ

鏡開き … 1月11日
正月に歳神様にお供えした鏡もちをおろし、健康を祈り、汁粉やぜんざいにして頂く日です。神様は刃物を嫌うため、包丁を使わず、木づちなどで割ります。

[イラスト3]
汁粉

小正月(こしょうがつ) … 1月15日
月の満ち欠けで日を数えていた旧暦では、満月の日から次の満月の日までが1カ月。1月15日は一年の最初の満月ということで「小正月」と呼ばれます。小豆がゆを頂きます。

[イラスト4]
小豆がゆ

節分(せつぶん) … 2月3日
立春の前日で、季節の分かれ目の日。昔は立春から一年が始まるとされていたことが由来。豆まきの豆には、悪霊を退ける力があると考えられていました。福豆を歳の数だけ食べます。

初午(はつうま) … 2月最初の午の日
稲の実りを約束してくれる神様、お稲荷(いなり)様の祭りで、全国各地の稲荷神社で豊作や商売繁盛を祈願します。使者であるキツネの好物、油揚げやいなり寿司を供える風習もあります。

[イラスト5]
いなり寿司

五節句 上巳(じょうし)の節句 … 3月3日
3月最初の巳の日。「桃の節句」「ひな祭り」として知られています。邪気を祓(はら)う桃の花やひな人形を飾り、ちらし寿司やはまぐりの潮(うしお)汁などで女の子の成長を祝います。

[イラスト6]
ちらし寿司、はまぐりの潮汁

彼岸(ひがん)・春分の日 … 3月21日ごろ
昼と夜の時間が等分になる「春分の日」の前後7日間。墓参りや仏壇の掃除をして、仏前にぼたもちなどを供えます。

花見 … 桜開花のころ
桜は「田の神様が宿る木」。桜の花が咲くと、その年の豊作を願って宴を催したのが始まりです。花見団子などを頂きます。

[イラスト7]
花見団子

八十八夜 … 5月2日ごろ
立春から八十八日目、新茶の季節。この日に新芽を摘み、お茶にして一口飲むと病気にならないといわれました。また、米づくりの始まりの日でもあります。

五節句 端午の節句 … 5月5日
男の子の成長を祝う行事です。菖蒲(しょうぶ)を魔よけにした中国の風習が元になっており、菖蒲湯に入るならわしがあります。柏もちやちまきで祝います。

[イラスト8]
柏もち、ちまき

五節句 七夕の節句 … 7月7日
中国から伝わった織り姫と彦星の伝説に、日本の伝説や旧暦の盆が加わって現代の七夕祭りになりました。豊作を祈る行事でもあり、天の川に見立てたそうめんを食べます。

[イラスト9]
そうめん

土用の丑の日 … 7月20日ごろ
「土用」とは、四季の変わり目の18日間を指す言葉。年に4回ありますが、夏の土用が最も有名になったのは、夏バテ予防にうなぎを食べる習慣が定着したためです。

[イラスト10]
うなぎ

五節句 重陽(ちょうよう)の節句 … 9月9日
「菊の節句」ともいわれます。菊には強い香りがあるため、邪気を祓う力があり、さらには不老長寿の力を持つとされ、お酒に入れて菊花酒を頂きます。

[イラスト11]
菊花酒

十五夜 … 旧暦8月15日
中国の中秋節に由来する「お月見」で新暦の9月ごろ。十五夜の満月には、秋の収穫に感謝の気持ちを込めて、15個の丸い月見団子を供えます。これは満月に見立てたものです。

彼岸・秋分の日 … 9月23日ごろ
「春分の日」と同じく、昼と夜の時間が等分になる「秋分の日」の前後7日間。春の彼岸と同じように、ご先祖様をしのび、感謝の祈りをささげます。おはぎなどを供えます。

[イラスト12]
おはぎ

十三夜 … 旧暦9月13日
十五夜と対になる行事で、新暦の10月後半ごろ。「栗名月」「豆名月」とも呼ばれます。十五夜だけのお月見は「片月見」と呼び縁起がよくないとされています。13個の月見団子や栗ご飯を供えます。

[イラスト13]
栗ご飯

冬至 … 12月22日ごろ
二十四節気の一つで、北半球では一年中で昼が最も短くなる日。冬至を過ぎれば人々にも精気が戻ると考えられ、小豆を加えたかぼちゃの煮ものなどで力をつけ、ゆず湯に入る風習があります。

[イラスト14]
かぼちゃの煮もの

大晦日(みそか) … 12月31日
正月の歳神様を迎える日。大晦日を「年越し」ともいいますが、もともとは正月の準備のこと。家を掃除して清め、神様を迎える準備をします。年越しそばを頂きます。

[イラスト15]
年越しそば

[コラム]
和食すごろくで遊ぼう!
農林水産省のWebページには、家族で楽しみながら「行事食」に親しむことのできる「和食すごろく」を掲載しています。ぜひ、ダウンロードして遊んでみてください。
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/culture/attach/pdf/index-77.pdf

[画像1]
和食すごろく

取材・文/大沼聡子
参考:中村羊一郎 著『年中行事としきたり』(思文閣出版)


お節料理に込められた願いや意味
家庭で最も身近な「行事食」といえば、正月の「お節料理」。一つ一つに、古くから大切に祝われてきた意味があるのです。

節目に特別な料理をいただき福を招いて災いを祓(はら)う
一年の始まりである正月は、もともと豊作と幸せをもたらす「歳神様」と呼ばれる神を、それぞれの家庭でお迎えするために行われてきた年中行事です。

そのため、年末に大掃除をするのは、正月を迎えるために家を片付けてきれいにするというよりも、「歳神様をお迎えするために清める」という大切な意味がありました。正月を象徴する門松も、神が宿るのにふさわしい木として用意されたものです。

お節料理はもともと、神に供えたものをあとから家族で頂くものでした。新年に歳神様と食事をともにすることで、福を招き、災いを祓うと考えられていたのです。江戸時代には、お供えは飾るだけになり、一方で食べられる祝い肴(ざかな)が重箱に詰められるようになり、今のようなお節料理の形式につながります。

このように、お節料理の願いや意味について改めて考えてみると、日本の食文化の根底に流れている心のあり方を知ることができます。新年はぜひ、感謝の気持ちをともにしながら、お節料理を頂いてみましょう。

[イラスト1]
一の重(祝い肴・口取りなど)
紅白かまぼこ
祝いの行事を彩る紅白は、「紅」がめでたさや喜び、魔よけの意味。「白」は神聖であることの象徴。半円形は日の出を表します。

数の子
ニシンの卵。その名のとおり、卵をたっぷりつけるため、「子宝に恵まれること」や、「子孫繁栄」を願って食べられます。

田作り
豊作を願って食べられる田作りは「ごまめ」とも呼ばれます。昔は小魚を田んぼの肥料にしていたため、この呼び名になりました。

黒豆
「まめに(丈夫で健康に)暮らせるように」と、長寿を願って食べられます。ちなみに、黒は魔よけの色でもあります。

たたきごぼう
土の中のしっかり深いところまで根をはるごぼう。家族や家業がその土地に根づき、揺らがないことを願って食べられます。

きんとん
芋を黄金、栗を小判に見立てたきんとんは漢字で書くと「金団」。豊かな一年を過ごせるようにという願いが込められています。

[イラスト2]
二の重(酢のもの、焼きものなど)
えび
「腰が曲がるまで、元気で長生きできますように」という、長寿の願いが込められています。赤い色には、魔よけの意味があります。

こはだ粟(あわ)づけ
コハダは成長とともに名前が変わる出世魚なので、縁起がよいといわれます。さらに黄色く染められた粟で「五穀豊穣(ごこくほうじょう)」を願います。

焼き魚
出世魚のブリや、「めでたい」とかけて喜ばれるタイなどを焼いたもの。縁起のいい魚を頂き、新年を祝います。

なます
大根の白、にんじんの紅の色の取り合わせがおめでたい酢のもの。この紅白はお祝いに用いられる「水引」を表しています。

[イラスト3]
三の重(煮ものなど)
昆布巻き
昆布は「よろこぶ」につながる縁起のいい食材。ほかにも、「煮しめ」の結び昆布にも用いられ、お節料理には欠かせません。

くわい
一つの根に子が毎年つくことや、芽が出て上に伸びることから、「出世」と「繁栄」につながると考えられています。

れんこん
たくさん穴があいていることから、「見通しがいい」とされる縁起物。酢漬けにしたり、煮ものにしたりして加えられます。

八つ頭
親芋に子芋がつく形状が「子孫繁栄」を表していたり、「八」が末広がりであったりすることから縁起がいいとされています。

[イラスト4]
重箱

[コラム]
正月にも使う祝い箸(ばし)
正月やお祝いのときに使われる「祝い箸」。両端が細く、真ん中あたりが太くなっている丸箸で、「両口箸」ともいわれています。この箸を使って食事をするということは、一方の端は神様が使い、もう一方の端を人が使って、神様と食事をともにするという意味を持ちます。

また、祝い箸にはさらに「柳箸」という別名もありますが、それは材料に柳の木が使われているためです。お祝いのときに使われるため、割れたり折れたりしては縁起が悪いので、丈夫な柳が使われているのです。

[写真1]
祝い箸(ばし)

取材・文/大沼聡子
協力/一般社団法人和食文化国民会議


行事食でも日常でも食卓を彩る器選び
家庭で和食を盛りつける際の器選びについて、前出の後藤加寿子さんにお聞きしました。

家庭でそろえる和食器は通年で使えるものを
「和食の器」と聞くと、使うのが難しいと思っている人は多いかもしれません。和食器に詳しい料理研究家、後藤加寿子さんは、「そんな思い込みが和食の継承を妨げることになるのでは」と、疑問を投げかけます。

「伝統的な日本料理のお店では、四季折々の器で私たちの目を楽しませてくれます。でも、家庭でつくる和食のために、そんなにたくさんの器をそろえることはできませんよね。ですから季節感は旬の食材や料理で楽しみ、器は脇役として考えるとよいでしょう」

お節料理の盛りつけについても、必ずしも重箱に詰める必要はないといいます。

「お節料理はお皿に盛ってもかまいません。冷蔵庫のある現代は重箱につくり置きせず、つくり立てをおいしく味わうほうが理にかなっているともいえるのです」

現代の暮らしに見合った和食器選びをしてみてはいかがでしょう。

[写真1]
白い磁気の角皿。白い大皿はどんな料理とも相性がよく、天ぷらや煮ものなどが映えます。一人前のカレーや麺類の皿にも使えます。

[写真2]
鮮やかな九谷焼の中皿は、釉薬(ゆうやく)の色数が少なくてシンプルなので、和洋問わず使えます。焼き魚がとてもよく似合う器です。

[写真3]
やや厚めで温かみがある陶器の中皿は、おひたしや冷奴など冷たい料理も似合います。やや深さがあるので、汁気もこぼれません。

[写真4]
洋食器のモダンなフォルムを意識した陶器の小皿は、和風マリネなど、和洋折衷の料理によく合います。取り皿としても活躍。

[写真5]
白い刷毛目(はけめ)が美しい、陶器の中鉢。浅めの鉢は中に入った料理がよく見えるので、煮ものやあえものなどを盛りつけるのにおすすめです。

[写真6]
磁器のサンマ皿。横長の角皿なので、漬けものや一人前ずつのオードブルなど、魚以外のものを盛り合わせても合います。

[写真7]
焼き締めの陶器の中鉢は、一般的には冬っぽいと思われがちですが、夏は十分に水でぬらしてから使うと涼しげ。サラダや白あえなどに。

[表1]
和食器の選び方
1.積み重ねやすい
現代の台所事情は、収納が多いわけではないため、皿でも鉢でも、積み重ねて効率よく収納できるものがおすすめ。

2.色や柄が強すぎない
あくまでも器は料理の引き立て役と考えて。主張しすぎないものが使いやすい。

3.質感が異なる
磁器なら磁器で統一して使うのが洋食器の文化。和食でもそうしがちですが、日本の食卓は磁器と陶器、さらには漆器まで、質感の異なる器を混ぜて並べてもいい。

[コラム]
器と箸(はし)にみる「和食」の文化
日ごろ、当たり前すぎてなかなか気づきませんが、多種多様な器を使うのは「和食」ならではの特徴です。ご飯は茶碗に、みそ汁は漆器の椀に、焼き魚は平皿に、煮ものは鉢に。近隣諸国をみても、これほど器の種類が多い国はありません。

また、箸も日本の食文化を代表するものです。奈良時代以降に、さじを使う伝統が消えて箸だけを使うようになりました。さじを使わない代わりに、熱い汁ものは椀を持って、直接口をつけてすする習慣ができたのです。そのため、椀や箸は家族それぞれが自分のものを所有する文化ができました。同様に箸を使う食文化を持つ国々でも、これは日本だけに見られる特徴です。

取材・文/大沼聡子
協力/後藤加寿子
撮影/福田栄美子


どれだけわかるかな? 和食クイズに挑戦!
次世代に和食を継承していくための取り組み「全国子ども和食王選手権」で出題されるクイズの一部をご紹介。ぜひ、チャレンジしてみてください!

「全国子ども和食王選手権」とは
小学生を対象に、日本の伝統的な食文化である「和食」や、ふるさとの「郷土料理」に対して、子どもたちの強い関心と理解を育むことを目的に行われるイベントで、今年で2回目の実施となります。

[写真1]
「全国子ども和食王選手権」の様子。

問題1
次のうち、秋が旬ではない食材はどれでしょうか?
A.なし
B.さくらんぼ
C.かき
D.りんご

問題2
ブリの旬はどの季節でしょうか?
A.春
B.夏
C.秋
D.冬

問題3
江戸時代から東京で栽培が続く、収穫量全国トップクラスの野菜はどれでしょうか?
A.小松菜
B.かぶ
C.ねぎ
D.ほうれん草

問題4
石川県が漁獲量1位のものはどれでしょうか?
A.ブリ
B.エビ
C.イカ
D.タコ

問題5
和食で用いられる伝統的な香辛料・香味野菜のうち、静岡県が栽培面積と産出額日本一なのはどれでしょうか?
A.おろし大根
B.ゆず
C.わさび
D.さんしょう

問題6
愛知県で生産量が第1位なのはどの野菜でしょうか?
A.レタス
B.はくさい
C.キャベツ
D.とうもろこし

問題7
次の中で、漁獲量または収穫量が全国1位ではない三重県の食材はどれでしょうか?
A.伊勢エビ
B.ばらのり
C.イカナゴ
D.カツオ

問題8
京都の伝統野菜である聖護院(しょうごいん)かぶらの旬はどの季節でしょうか?
A.春
B.夏
C.秋
D.冬

問題9
イヨカンの旬はいつでしょうか?
A.1~3月
B.4~6月
C.7~9月
D.10~12月

問題10
宮崎県で収穫量が全国第1位なのはどの食材でしょうか?
A.じゃがいも
B.日向(ひゅうが)夏
C.落花生
D.さつまいも

問題11
沖縄県に、ゴーヤーチャンプルーという郷土料理があります。
チャンプルーとは沖縄県の方言ですが、どのような意味でしょうか?
A.ごちゃまぜ
B.あたたかい
C.南国
D.海

問題12
次の4つの食材のうち、昔から日本のだしをつくるときにあまり使われていなかったのは次のどれでしょうか?
A.干し貝柱
B.昆布
C.かつおぶし
D.煮干し

問題13
江戸時代、北海道から船で大阪まで運ばれていた、和食に欠かせないある食材がありました。そのものの名前は?
A.昆布
B.ウニ
C.イクラ

問題14
かつおぶしはカツオを煮て乾燥して作ります。出来上がったかつおぶしの重さは、生のカツオのときの何分の1でしょう?
A.2分の1
B.3分の1
C.6分の1

問題15
同じ塩味の料理を作るとき、「濃い口しょうゆ」と「うす口しょうゆ」で使う量はどちらが多いでしょうか?
A.濃い口もうす口も同じ量を使う
B.濃い口しょうゆを多く使う
C.うす口しょうゆを多く使う

問題16
日本の包丁の代表に出刃包丁があります。出刃包丁は主にどういうときに使う包丁でしょうか?
A.野菜を切るための包丁
B.魚やとりなどを解体するときに使う包丁
C.刺身を作るための包丁
D.野菜・肉・魚を一本で処理できる包丁

問題17
和食において重要な5つの調味料「さ(砂糖)し(塩)す(酢)せ(しょうゆ)そ」、さて「そ」は何を指すでしょうか?
A.ソース
B.しそ
C.みそ

問題18
お正月の料理と言えば「お節料理」です。お節料理と関係のないものは次のどれでしょう?
A.黒豆
B.数の子
C.栗きんとん
D.柏もち

問題19
箸のマナーに反する行為を「嫌い箸」と言います。いったん取りかけてから他の料理に箸を動かすことを何と言いますか?
A.洗い箸
B.たたき箸
C.くわえ箸
D.移り箸

問題20
お祝いの場では両端が細く真ん中が太い(両口箸)お箸を使います。なぜでしょう?
A.神様と食べものを分け合うから
B.形がきれいだから
C.両端を使って食事をするため

回答
問1 B(初夏から夏が旬)
問2 D(西日本では正月に食べる地域が多い)
問3 A(徳川八代将軍の吉宗が「小松川」の地名をとって名付けたとされる)
問4 A(16世紀にはすでにブリ漁が行われていた)
問5 C(涼しくて水がきれいなことが栽培条件)
問6 C(夏だけでなく春も生産している)
問7 D(三重県は伊勢エビ漁が盛ん。カツオの漁獲量日本一は静岡県)
問8 D(大きなものは2~5キログラム、日本最大級のかぶ)
問9 A(イヨカンはビタミンCがたっぷり)
問10 B(江戸時代から栽培がはじまったといわれる)
問11 A(ゴーヤーと島豆腐、野菜、豚肉などを炒めた郷土料理)
問12 A(干し貝柱は主に中国料理で使われてきた)
問13 A(日本海を北前船〈きたまえぶね〉で運んでいた)
問14 C(半年かけて乾燥させ、水分がほとんどなくなる)
問15 B(濃い口しょうゆの食塩量はうす口しょうゆよりも少ない)
問16 B(刃が厚くて重いので、骨を切っても刃先が曲がらない)
問17 C(「味噌(みそ)」は「噌(そ)」だけでもみそを意味する)
問18 D(柏もちは「端午の節句」にちなんだ食べもの)
問19 D(いずれの回答も他人を不愉快にさせる行い)
問20 A(「祝い箸」とも呼ばれている)

[コラム]
「和食王」になってますます料理好きに
僕は昨年、小学6年生のときに「全国子ども和食王選手権」に出場し、「和食王」になりました。応募したのは、料理が好きだったから。小学1年生のときにおばあちゃんの誕生日ケーキづくりに挑戦したことがきっかけで、料理に夢中になりました。和食で初めてつくった料理は、秋田の「だまこ鍋」です。「和食王」の予選では、和食のだしの問題に苦戦したので、全国大会までに猛特訓!  昆布だしやかつおだし、干ししいたけのだしの違いがわかるようになって、優勝を勝ち取ることができました。それからは、たとえば同じ煮ものでも、だしによっておいしさを変えられるところが和食のよさだな、と思っています。「和食王」になってからは、そば打ち教室にも行き、ますます料理が面白くなってきました。最近、興味があるのは肉料理です。インターネットで調べたつくり方をもとにして、初めてとりのから揚げや豚のしょうが焼きをつくったんですが、家族にもおいしいと言ってもらえたのがうれしかったですね。

[写真2]
秋田県・煤賀(すずが)優弥さん(秋田大学教育文化学部附属中学校1年)

取材・文/大沼聡子

特集2 もち

もち
日本の食文化のなかで、もちはどのように生まれ、発展してきたのか、伝承料理研究家の奥村彪生(あやお)さんにお話を伺いました。

[写真1]
もち

中国の少数民族から伝来 弥生時代後期から食された
日本のもち食文化のルーツを辿(たど)るには、アジアの東部から南部に至る季節風(モンスーン)の影響を受ける地域に目を向けることになります。そこでは、多くの地域でもち米の栽培を行っています。

特に東南~東アジアにかけては、もち米を主食とする民族があります。中国や台湾の漢族はもち米粉を団子にして食べます。正月にもちを食べる文化を持つのは、ラオスの山岳系民族モン族をはじめ、中国貴州省・雲南省の少数民族。つまり、日本のもち食文化は、アジアの少数民族が伝えたと考えられるのです。

伝来時期は、おそらく弥生後期。もち米を蒸すための土器「甑(こしき)」や、もちをつくために使われたと思われる先端部の丸い杵(きね)の出土がこの時期に重なることが理由です。

正月を祝う食べ物として定着
「鏡もち」は、飛鳥時代には存在していたようです。奈良時代713年より各地方で編纂が開始された風土記の一つ、「豊後国(ぶんごくのくに)(現在の大分県)風土記」に、「もちを的にして矢を放ったところ、白い鳥になって飛んでいった。その後、家は衰え、水田も荒れ果てた」という説話が残っています。的にするということは、かなり大きく丸いもちであったことが想像できます。縁起のよい白鳥の連想は、もちには稲魂(いなだま)、稲の神様が宿るというモンスーン・アジアの民俗信仰と通じるものがあり、このもちが神聖なものとして敬われていたことを物語っています。

正月に鏡もちを供えるならわしは、平安時代に宮中で行われていた記録があります。「代々」の繁栄を祈る「橙(だいだい)」を上に重ねる飾りも、このころに登場しています。鏡もちを砕いて食べる「鏡開き」は、鎌倉時代から。奈良県吉野町にある金峯山寺(きんぷせんじ)で、砕いた鏡もちを煮て薄い花びら形にし、配ったことに始まるといわれています。稲魂が宿る鏡もちを分け与えるこの行いが、「お年魂」、つまりお年玉の起源ではないかと考えられています。

多様な食文化の象徴 家の歴史をも表す「雑煮」
雑煮は、実は婚礼の儀を始まりとする料理です。室町時代、京都の上級武家の「固めの盃」の肴(さかな)として、望月(もちづき)になぞらえた丸小もちと海山の幸を一つ鍋で煮て食し、両家が末長く結ばれることを祈りました。これが正月祝いやもてなしの料理に用いられるようになり、徐々に京都から全国へと広がりました。

日本全国でさまざまな雑煮が食べられているのは、みなさんよく知るところです。南北に長い日本は、言葉が変われば食が変わるのは当たり前のことでした。冷凍技術や流通が発達して日本の食はずいぶん均質化していますが、今なお土地の文化を色濃く残す雑煮はとても貴重な存在です。家によっても内容が異なるだけに、「家」の歴史が凝縮された食べものでもあります。ぜひ大切に食べ継いでほしいものです。

[図1]
もち米とうるち米の違い
違いはでんぷんの成分。もち米は、粘りのもとになるアミロペクチンがほぼ100パーセント。うるち米はアミロペクチンとアミロースを含み、適度な粘りで、主に米飯用として使われる。

[図2]
東西で違う雑煮のもちの形
もちは丸が日本古来の形。角もちは江戸時代、長屋暮らしでもちをつく道具も場所もない町民のもとへ行き、もちをついてお金をもらう「賃(ちん)つき餅屋(もちや)」が広めたもの。長方形に平たく伸ばしたのしもちで売るため、人々はそれを四角に切って食べた。

東:角もち
西:丸もち
関ヶ原の戦いの境界線
北海道と沖縄県は、古来、伝統的な雑煮文化がないため、掲載していない。

[表1]
関東と関西で違う「汁粉」と「ぜんざい」

[写真2]
奥村 彪生さん
伝承料理研究家。奈良、飛鳥時代から現代までのさまざまな料理を復元。著書に『日本料理とは何か 和食文化の源流と展開』(農文協)など多数。

取材・文/千葉貴子
イラスト/中山ゆかり


食べ方いろいろ! もち製品
形に特徴のあるものや、チーズやゴマが入ったもの、人気キャラクターをデザインしたものまで、いろんなもち製品を紹介します。

小さくかわいい丸もちはさまざまな料理に合う
杵つきちびころもち/たいまつ食品
いろいろな料理にぴったりの形と大きさにした小さなもち。気軽に加えられて、多彩な使い方ができる。

[写真1]
冬の定番、鍋の具材に。

[写真2]
汁粉やぜんざいに最適。

熱湯に約3秒通すだけで食べごろになる薄いもち
しゃぶしゃぶもち/たいまつ食品
鍋料理で食べるだけでなく、お好み焼きのトッピングなどにも使えるもち。おつまみにするのもいい。新潟県産こがねもち米100パーセント使用。

[写真3]
軽くお湯に通すだけで食べられる。

[写真4]
具材をのせて焼くと簡単にピザ風に。

5年間の長期保存が可能 非常食として備蓄できる
非常用・備蓄用切り餅/越後製菓
切りもち1キログラムを、酸素や水分を通さないバリア性の高いアルミで包装し、紫外線による劣化も防止。賞味期限5年で備蓄に適している。
[写真5]

スライスチーズ代わりに使えるイタリア風のもち
チーズのようなうす切りスライス/越後製菓
プロセスチーズを練り込んだもちを薄くスライス。約1分の加熱でやわらかくなる。リゾットやグラタンのほか、ピザ生地に使っても。
[写真6]

天然植物性色素で人気キャラを描いたスタンプもち
ディズニー ツムツム 生きりもち/アイリスフーズ
スマホゲームで人気のキャラクタースタンプが切りもちに。1個30グラムと小さくて食べやすい。原料のもち米は国産100パーセント。
[写真7]

(c)Disney
(c)Disney.Based on the "Winnie the Pooh" works by A.A.Milne and E.H.Shepard.
(c)Disney/Pixar

多様な食べ方ができるスティックタイプの切りもち
サトウの切り餅いっぽん 10本入り/佐藤食品工業
ハムやチーズ・のりを巻く、あんこやコーンスープをつけるなど、アイディア次第でさまざまな食べ方が。1本ずつの個包装で無駄なく使える。

[写真8]
ピーナッツバター、みそ、ハチミツを混ぜたものにつけて食べるみそピーつけもち。

[写真9]
しゃぶしゃぶ用の豚肉を巻いて蒸し焼きにした肉巻きもち。

ほどよい甘さと香ばしい風味でおやつにぴったり
焼いて食べる あんこ餅 黒ごまあん/うさぎもち
黒ごまを練り込んだもち生地で、黒ごまあんを包んである。フライパンやホットプレートなどで簡単に焼けて、甘さと香ばしさを楽しめる。

[写真10]
もちの中に黒ごまあんがたっぷり。

[コラム1]
もちによる窒息事故に注意!
もちを喉に詰まらせて窒息状態になる事故が絶えません。もちを食べる際には以下のようなことを注意しましょう。
1.もちは小さく切って、食べやすい大きさにしましょう。
2.急いで飲み込まず、ゆっくりとよくかんでから飲み込みましょう。
3.乳幼児や高齢者と一緒に食事をする際は、適時食事の様子を見るなど注意を払うよう心がけましょう。
4.いざという時に備え、応急手当ての方法をよく理解しておきましょう。
参考Web日本医師会「救急蘇生法」
http://www.med.or.jp/99/kido.html[外部リンク]

[コラム2]
奥村彪生先生おすすめ
もちのおいしい食べ方
朝食にもちを食べよう
おすすめしたいのは朝食にもちを取り入れることです。焼いてすぐに食べられるもちは、トースト代わりにぴったり。ただし、冬の朝の起きてすぐは口がスムーズに動かないこともあるので、喉に詰まらせることのないよう気をつけてください。

朝にもちを食べることで仕事や勉強の効率がグンと上がるはずですよ。もちは腹持ちもよいので、とくに育ち盛りのお子さんの朝食には最適だと思います。

食べ方を自由に楽しんで
もちを電子レンジで加熱して、かつおぶし、しょうゆと黒こしょうを加えて熱湯を注ぐ簡単雑煮が定番の食べ方です。もちをベーコンで巻いてチーズをのせ、トースターで焼いて食べるのもいいですよ。コーヒーにもよく合います。

揚げたもちに、だし汁と大根おろしをかければそれだけでちょっとしたおつまみにすることができます。電子レンジで加熱したもちで肉みそを包み、餃子風にしてもいいです。

洋食なら、シチューに入れたり、マカロニのように細い棒状にもちを切ってミートソースを絡めるのもおいしいですよ。甘いものが好きな方は、あんこといっしょにチョコレートをもちに包んで食べてみてください。

もちはとても懐の深い食材で、相性のよい食材がたくさんあります。もっと気楽に自由に、もちを楽しんでほしいと思います。

取材・文/千葉貴子、Office彩蔵
イラスト/中山ゆかり

輝く! 未来を担う生産者 vol.8

農事組合法人One/石川県
れんこん栽培で地域の未来を明るく
手間も時間もかかるれんこん栽培を、各地の技術の研究で効率化に成功。
町の事業に発展させたいと、情熱をそそぐ若手農家の熱い思いとは――。

[写真1]
れんこん畑にて。長女・愛々(らら)ちゃんと次男・来凰(らいお)くん、三男・太寿(だいじゅ)くんと宮野さん夫妻。

「泥まみれ」の印象が掘ったら「おもしろい!」
先の見通しがよくなる、と正月の縁起食材として欠かせないれんこん。「金沢のれんこんは、穴が小さいので実が詰まっていて甘みやうまみ、粘りが強いのが特徴です」と語るのは、農事組合法人Oneの副代表・宮野義隆さん。金沢市才田町(さいだまち)でれんこん栽培に取り組み、急成長を遂げています。

16歳から大工の仕事をしていましたが、23歳のときに父親が病気で倒れたことから、兄と母を手伝う形で就農。しばらくは稲作に取り組んでいました。れんこんとの出会いは、たい肥として提供していた稲のもみ殻をれんこん農家に配達に行ったときのこと。「泥まみれになって汚ねぇなぁ。こんな仕事したくねぇわ」。そう言い放つ宮野さんに返ってきたことばが「試しに掘ってみぃ」。実際に掘ってみると――おもしろい! 収穫期間が8月から翌年5月ごろまでと長く、冬に手が空く稲作と両立できるのも魅力でした。

そこで、河北潟(かほくがた)干拓地でれんこん栽培に取り組むことを決意。妻の沙知さんも農業未経験ながら「子育てをしながら夫婦一緒に働ける」と大賛成。父も「おまえがそう言うのを待っていた」と喜んでくれました。

荒れ地を開墾、ひたすら技術を学ぶ
早速、資金を借り入れて1ヘクタールの元れんこん畑を購入。ヨシやガマなどの雑草が一面に生い茂り、トラクターを入れることもできない荒れ地を、手作業で開墾する日々が始まりました。そうして除去した雑草はなんと2トントラックで100台分!「黙々と作業をする主人の背中を見ていて、切なくなりました」と沙知さんは当時を振り返ります。

でも、その姿を見た近くのれんこん農家が、栽培中のれんこん畑0.5ヘクタールを貸してくれたおかげで、自家採種が可能になったのです。2年目は車を売って肥料代と生活費にし、なんとか軌道に乗ったのは3年目のことでした。

土中で生育するれんこんは、葉の状態を見ただけで生育状況を見極め、施肥・害虫防除をしなければならないため、高い技術を要求されます。その点でも宮野さんは、持ち前の情熱で茨城や徳島、愛知などれんこんの主な産地を訪ねては栽培技術を勉強。何事も「やってみなければわからない」精神で、土や水の研究を重ね、稲を育てる水田での栽培にも成功。確実に売り上げを伸ばしていったのです。

農業で、才田町を日本を幸せに!
2013年、宮野さんは兄の稲作とれんこん部門を一緒にした農事組合法人Oneを設立。凍える寒さの中、一緒に作業している仲間の将来がふと気になったのが、その理由です。法人化すれば、年金などの福利厚生を提供することができ、社員は老後の心配なく家族を養っていけます。

「おいしいものを作って、『ありがとう』と言ってもらえる、こんな幸せな仕事はありません。Oneの目標は、農業を、地域を支える産業にすること。そのためには、雇用の受け皿になる必要がある」

これまで各農家が独自に行っていた栽培法をマニュアル化し、新規就農者も確実に暮らしが成り立つ仕組みをつくる。そして、れんこんで才田町を、日本を幸せにしたい! 若く熱い農家の夢は、果てしなく広がっています。

[写真2]
土中のれんこんを掘り出し、水で泥を落とす収穫作業。

[写真3]
一船は約80キログラム。この日は2人がかりで320キログラムを収穫。「表面の赤褐色は『赤さび』と呼ばれ、新鮮な証です」と宮野さん。

[写真4]
Oneの代表で、稲作を担当する兄の一(はじめ)さん。

[写真5]
Oneで6年修業したのち、独立した島大輔さんと。つらい時代を一緒に乗り越えた大切な仲間。

[写真6]
毎年One主催で行う、稲の収穫体験。子どもたちの元気な声が響き渡る。

[写真7]
休日は夫婦揃って子どものサッカーを応援!
「以前は野球が趣味でしたが、今は休みになると長男・聖也のサッカーの応援へ。夫婦揃って楽しんでます」。

Profile
宮野義隆さん、沙知さん
義隆さんは1980年生まれ。2003年に実家で就農。2007年にれんこん栽培を始め、2013年に兄とともに農事組合法人Oneを設立。沙知さんは1984年生まれ。2005年に義隆さんと結婚。3男1女を育てながら夫を手伝う。農業女子プロジェクトのメンバーとしても活躍。
所在地/石川県金沢市才田町は25-1
http://www.one2013.com/[外部リンク]

取材・文/岸田直子
撮影/原田圭介

MAFF TOPICS

MAFFとは農林水産省の英語表記「Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries」の略称です。「MAFF TOPICS」では、農林水産省からの最新ニュースなどを中心に、暮らしに役立つさまざまな情報をお届けいたします。

あふラボ 「青いキク」が誕生
2種類の遺伝子で花弁を青色に
キクは日本の切り花類の出荷量の約40パーセントを占める重要な花です。白・黄・オレンジ・赤・緑などさまざまな花色があっても青はなく、開発が望まれていました。

キクには青い花を持つ交雑可能な野生種が存在しないため、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)では、サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社と共同で、遺伝子組換え技術を用いた青いキクの開発に取り組みました。まずは青紫色のカンパニュラの遺伝子を取り入れましたが、紫色にしかならなかったため、より鮮やかな青色を目指して研究・開発を進めました。そして、青いチョウマメから取り出した別の遺伝子を働かせることで、花色を青色にすることに成功。

「青い色の花はいろいろありますが、パンジーの遺伝子などではうまくいかず、カンパニュラとチョウマメの遺伝子でうまくいくことがわかりました。また、遺伝子を導入できる品種の選抜にも時間がかかり、苦労しました。今までは仏花の需要がほとんどでしたが、新たな色ができることによって、パーティーやお祝いの場でも用いられるといいと思っています」(農研機構野菜花き研究部門花き遺伝育種研究領域・野田尚信さん)

さらに、キクのほかバラやカーネーションなどにも応用できる可能性があります。

現在、青いキクは、デコラ咲きやポンポン咲きなど、さまざまな種類で開発中です。今後は野生種との交雑による生態系への影響リスクを回避する技術を開発しながら、10年後の完成を目指しています。

日本でもっとも親しまれている花き・キク。さらに青い色が加われば、キクの新たな楽しみ方が生まれることでしょう。

[写真1]
新しい青色のキク。これまでのイメージを一新。

[コラム]
青いキクができるまで

[写真2]
もとのキク

[写真3]
カンパニュラの遺伝子を導入

[写真4]
紫色のキク

[写真5]
チョウマメの遺伝子を導入

[写真6]
青色のキク

もとの桃色のキクにカンパニュラの遺伝子を導入すると紫色のキクになり、さらにチョウマメの遺伝子を導入すると青色のキクに。導入した遺伝子の働きで新たにつくられたアントシアニン(※)は単独では青紫色に発色するが、もともとキクの花弁が持っている無色のフラボン(※)と共存して相互作用することで、青色に発色する。

アントシアニンとは、紫色などの発色を担う色素のこと。フラボンとは、アントシアニンと似た化学構造を持つ無色から淡黄色の色素のこと。

[写真7]
デコラ咲き
華やかでアレンジメントによく用いられるデコラ咲き。

[写真8]
ポンポン咲き
まん丸い形のポンポン咲き。かわいらしさとおしゃれ感がある。


NEWS1 「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」選定地区を決定
地方創生のモデルとなる優良地区を選定
「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」では、強い農林水産業、美しく活力ある農山漁村の実現を図っている優良事例を選定しています。第4回を迎える今年は、地域を活性化し、所得向上に取り組む全国844地区から応募があり、31の選定地区が決まりました。いずれの地区でも、地方創生のモデルとして高い理想と情熱を持って、さまざまな試みを行っています。

これまでの選定地区から6地区が6月に熊本で開催された「ディスカバー農山漁村の宝シンポジウム」にパネラーとして招かれ、パネルディスカッションを実施。また、同時にマルシェに出店して農林水産物等を販売しました。マルシェは昨年、東京・有楽町でも開催され、多くの来場者でにぎわいました。

[表1]
「ディスカバー農山漁村の宝」第4回選定地区一覧
No.、都道府県、市町村、地区名
1.北海道 伊達市 観光物産館農産物販売協議会
2.北海道 中川町 中川町商工会
3.北海道 中標津(なかしべつ)町 なかしべつ菌床栽培協同組合
4.岩手県 釜石市 釜石地方森林組合
5.山形県 南陽市 おりはた環境保全協議会
6.福島県 泉崎(いずみざき)村 社会福祉法人こころん
7.千葉県 木更津市 木更津市観光ブルーベリー園協議会
8.長野県 生坂(いくさか)村 (公財)生坂村農業公社
9.長野県 長野市 信州ジビエ研究会
10.静岡県 伊東市 いとう漁業協同組合富戸(ふと)支所ダイビングサービス
11.新潟県 南魚沼市 特定非営利活動法人南魚沼もてなしの郷
12.富山県 富山市 特定非営利活動法人愛和報恩会
13.石川県 川北町 農業法人有限会社わくわく手づくりファーム川北
14.石川県 七尾市 農業生産法人株式会社スギヨファーム
15.福井県 あわら市 特定非営利活動法人ピアファーム
16.岐阜県 高山市 (有)飛騨山椒
17.愛知県 安城市 明治用水土地改良区
18.三重県 南伊勢町 農事組合法人土実樹(つみき)
19.京都府 南丹市 美山ふるさと株式会社美山町自然文化村
20.京都府 和束(わづか)町 一般社団法人えん-TRANCEわづか
21.和歌山県 古座川町 古座川ジビエ振興協議会
22.鳥取県 若桜(わかさ)町 わかさ29工房
23.島根県 飯南町(いいなんちょう) 飯南町注連縄(しめなわ)企業組合
24.山口県 山口市 株式会社Archis
25.徳島県 美波町 「四国の右下・魅力倍増」推進会議
26.徳島県 三好市 大歩危(おおぼけ)・祖谷(いや)いってみる会
27.高知県 日高村 日高村オムライス街道推進プロジェクト
28.福岡県 八女(やめ)市 八女地域連携協議会
29.佐賀県 多久(たく)市 ひらの棚田米振興協議会
30.熊本県 阿蘇市 NPO法人ASO田園空間博物館
31.沖縄県 糸満市 糸満市観光まちづくり協議会

[写真9]
昨年選定された愛知県豊根村「茶臼の里合同会社」。耕作放棄地を解消し、都市との交流を行う。

[写真10]
6月にJR熊本駅で行われたマルシェ。

[写真11]
昨年12月には東京・有楽町でもマルシェを開催。即売会のほか、選定地区のパネル展示も行われた。

詳細はこちらへ!
ディスカバー農山漁村の宝
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/discover.html


NEWS2 「食育活動表彰」の募集を開始
優れた取り組みを表彰し全国展開を目指す
食育の推進には、農林水産業や食品製造・販売等の事業活動、教育活動やボランティア活動を通じて、食育関係者による取り組みが全国で幅広く行われることが重要です。

このため、食育を推進する優れた活動の功績をたたえるとともに、広く周知し、全国に展開していくことを目的として食育活動表彰を行っています。

昨年行われた第1回では、261件の応募があり、その中から6件に農林水産大臣賞、13件に消費・安全局長賞が授与されました。

農林水産大臣賞を受賞した山口県立大学では、平成18年度から、学校やスーパーに出向いての自作キャラクターにふんした啓発や、絵本の作成による情報発信などを実施。先輩から後輩に10年もの間、引き継がれています。

このような魅力的な活動によって、食育がさらに広がるよう、今年も多くのご応募をお待ちしています。

また、受賞者は、来年6月23日、第13回食育推進全国大会(大分県)において表彰されます。

[ボランティア部門]
農林水産大臣賞
[写真1]
食育プログラム開発チーム食育戦隊ゴハンジャー(山口県立大学)の活動メンバー。

[写真2]
「ゴハンジャー」は三色食品群(赤:体をつくるもと、黄:エネルギーのもと、緑:体の調子をととのえるもと)をイメージ。

[写真3]
NPO法人霧島食育研究会「霧島畑んがっこ」の田植え風景。食農体験活動や郷土料理継承活動を実施。

[教育関係者・事業者部門]
農林水産大臣賞
[写真4]
熊本県立大学「郷土料理カフェ@仮設住宅」。震災復興支援として料理教室を行った。

[写真5]
西三河農協「かかしづくり体験」の様子。小学生対象の米づくり体験学習のひとつ。

写真はすべて平成28年度のものです。

「食育活動表彰」の募集について
締切:
[ボランティア部門]平成29年12月25日(月曜日)必着
[教育関係者・事業者部門]平成30年1月10日(水曜日)必着

表彰:
日時:平成30年6月23日(土曜日)
場所:第13回食育推進全国大会(大分県・予定)
農林水産大臣賞7点、消費・安全局長賞14点以内

応募方法はこちらへ!
食育活動表彰
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/hyousyo/161102.html


多面的機能支払交付金[第6回] 絶滅危惧種の保全が環境学習のきっかけに
近い将来絶滅の危険性が極めて高い淡水魚イバラトミヨが生息している秋田県大仙(だいせん)市中仙(なかせん)南部地区。平成19年度に行ったほ場整備事業に伴い、これら地域の貴重な動植物のための保全池が新たに作られ、大仙市中仙南部広域活動組織が管理を行ってきました。しかし、その後の数年間は、イバラトミヨの個体数の増加が確認できませんでした。

このため活動組織と大仙市が連携し、市が26年度にこの保全池に浅瀬の設置や水草の移植をするなど営巣・生育環境を整備。組織が交付金を活用し、啓発のための看板を設置するとともに、継続的に保全池周辺の草刈りや日常の水管理をしたことで生育環境が改善し、個体数の増加が確認されました。

また、組織と地元小学校が連携してイバラトミヨが増えた保全池での生き物調査を行うことで、子どもたちが地域の豊かな自然環境を認識するきっかけにもなっています。

イバラトミヨの生育環境を整備
[写真6]
保全池の全景。イバラトミヨの生息を紹介する看板を設置し、絶滅危惧種保全の啓発活動も実施。

[写真7]
調査で採取したイバラトミヨ。秋田県南部内陸地方を中心に分布する「トミヨ属雄物型」は中でも稀少。きれいな冷水を好み、湧泉とそれに連なる水路に生息する。

[写真8]
保全池が再生され、小学生たちが池に入って、調査に参加。

写真提供:大仙市

多面的機能支払交付金とは…
農業・農村の有する多面的機能が、適切に維持・発揮されるよう、農用地や水路、農道等の地域資源を保全している地域の共同活動を支援するための交付金です。

取材・文/細川潤子

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